この本を読んでほしい人
「世界はどんどん悪くなっている」と感じている方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
毎日のように報道される戦争、犯罪、災害のニュースに、私たちは無意識に「恐ろしい世界」「どうしようもない現実」という印象を抱きがちです。
でも、それは本当に「事実」なのでしょうか?
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、データを元に「本当に世界は悪くなっているのか?」を問い直し、人間が持つ“思い込み”に気づかせてくれる本です。
報道や教育で刷り込まれた「世界は貧しい、危険、手遅れだ」といったイメージが、実際のデータとは大きく異なることに驚くはずです。
メディアに触れることが多い人、仕事や育児で不安を抱えがちな人、これからの世界を見据えたい学生やビジネスパーソンにもおすすめです。
本の内容
世界を悲観的に見る“思い込み”
著者のハンス・ロスリングは、世界中の人が共通して持っている「悲観バイアス」に警鐘を鳴らします。
たとえば、世界の貧困層の割合。多くの人が「ほとんどの人が極度の貧困状態にある」と思っていますが、実際には、ほとんどの人が中程度の所得レベルにあり、毎日ちゃんと食べることができているのです。
私はこの本を読み、日本の1世帯当たり平均所得金額(524万円、厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa23/dl/03.pdf)
よりも低い世帯でも、実は世界的に見ればかなり裕福な部類であることに気づかされました。家に住み、食べ物があり、水も電気もある生活は、決して“当たり前”ではありません。
こうした誤解の背景には、「ドラマチックなニュース」に溢れるメディア環境があります。
インターネットの普及によって、私たちは「珍しく、怖く、ショッキングな出来事」ばかりにさらされ、事実よりも印象で判断するようになってしまっているのです。
10の「思い込み本能」とは?
本書では、世界を正しく見るために乗り越えるべき10の本能=「ドラマチックな思い込み」が紹介されています。いくつか印象に残ったものを紹介します。
恐怖本能
「恐ろしい話」に人間は本能的に注意を向けます。
しかし、頭が恐怖で支配されてしまうと、冷静に事実を見ることができなくなります。
たとえば福島の原発事故。被ばくによって死亡した人はゼロですが、多くの人が「放射能は危険」と信じ込んでいます。これは、「見えないリスク」への過剰な反応によるものです。
著者は、「世界が恐ろしい」と思う前に、まず数字やデータでリスクを確認するべきだと説きます。
私自身も「恐れを感じたときこそ、事実に目を向ける」「マインドフルネスなどで感情を整える」ことの大切さを再認識しました。

過大視本能
「珍しい出来事」がニュースになることで、あたかも頻繁に起こっているような錯覚をしてしまいます。
実際には、災害や戦争で亡くなる人数は年々減少しており、長期的には世界は確実に良くなっているのです。
ここでは「80・20ルール(パレートの法則)」が紹介されます。全体を見渡したときに、どこに本質があるのかを見極める視点が必要です。
パターン化本能
「A国の人は〇〇だ」といったような、思い込みによるステレオタイプも危険です。
私はフランスやイタリアに旅行したとき、文化の違いをたくさん経験しました。たとえば、店に入るときは必ず挨拶する、定休日でも突然店が閉まることがある、万引きされる側にも責任があるといった考え方など、「常識」は国によってまったく違うのです。

同じ国の中でも地域差はあります。だからこそ、一つのパターンに当てはめずに、多様性を見る視点が求められます。
焦り本能・犯人捜し本能・宿命本能
「いますぐ行動を!」という焦り、「すべては〇〇のせいだ」という短絡的な犯人捜し、そして「変化は起きない」といった宿命論もまた、事実から私たちを遠ざけます。
変化はゆっくりでも確実に起きています。
たとえば、世界中の女性一人あたりの子どもの数は大きく減少していますが、これは乳幼児死亡率の低下によって、「たくさん産まないと生き残れない」状況から脱しているためです。
この変化の延長線上に、今の日本の少子化もあるのではないか――本を読んで、そんな考えが浮かびました。
下図は、日本の人口の推移のグラフです。出生率は減少傾向にあり、今後も低いと推定されています。また、14歳以下の人口も減少傾向が続き、日本の総人口も減少するといわれています。

出典:厚生労働省、『我が国の人口について』https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21481.html
まとめ
『FACTFULNESS』を読み終えたとき、「私たちはいかに不正確な世界観の中で生きてきたのか」に気づかされます。
世界は確かに完璧ではありませんが、悪くなっているのではなく、少しずつ良くなっているのです。
事実をもとに物事を見る「ファクトフルネス」の考え方は、日々のニュースを冷静に受け止め、行動を誤らないための強力な武器になります。
「怖い」「なんとかしなきゃ」という直感の前に、一歩立ち止まって、数字やデータを見てみる。この習慣があれば、不安の渦に飲まれずにすむはずです。
私たちが必要としているのは、過剰な悲観ではなく、冷静な理解。
この本は、その第一歩を与えてくれます。
※この記事は『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(著:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド/訳:上杉周作、関美和/発行:日経BP社)に基づいて執筆しています。
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